業務改善助成金は「設備投資」の助成金だと思われがちですが、厚生労働省の案内に載っている対象経費の例には、「顧客管理情報のシステム化」が入っています。機械を買わなくても、事務作業を自動化する仕組みを作れば対象になり得ます。
一方で、パソコンやタブレットなどの端末は、一般の事業者では対象外です。ここを取り違えると、申請の直前に組み替えることになります。この記事では、令和8年度の案内をもとに、何が対象で何が対象外かを整理し、申請に使う見積書の形まで示します。
申請期限は、都道府県ごとの最低賃金の発効日の前日と11月30日の早いほうです。自分の県の発効日は47都道府県の発効日一覧で確かめられます。10月1日に上がる15都府県では、締切は9月30日です。
対象になる経費:案内に書かれている3つの区分
厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」には、対象経費の例が3つの区分で示されています。
| 経費区分 | 案内に載っている例 |
|---|---|
| 機器・設備の導入 | POSレジシステムの導入による在庫管理の短縮/リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮 |
| 経営コンサルティング | 国家資格者による、顧客回転率の向上を目的とした業務フロー見直し |
| その他 | 顧客管理情報のシステム化 |
3つ目の「顧客管理情報のシステム化」が、事務の自動化に当たる部分です。顧客や案件の情報を1か所にまとめ、転記や集計を仕組みに任せる形は、ここに該当します。
重要なのは、助成金が見ているのは「何を買ったか」ではなく「生産性が上がるか」だという点です。申請では、どの作業が、どれだけ短くなるのかを説明することになります。「月16時間の転記が20分になる」のような、時間で言える形にしておくと通りやすくなります。
対象外になるもの:パソコンとタブレット
案内には、助成対象経費の特例として次の整理があります。
| 経費 | 一般の事業者 | 特例事業者(物価高騰等要件に該当) |
|---|---|---|
| 生産性向上に資する設備投資等 | ○ | ○ |
| PC・スマホ・タブレット等の端末と周辺機器の新規導入 | × | ○(新規導入に限る) |
つまり、仕組みを作る費用は対象でも、それを動かすパソコン本体は原則として対象外です。見積書に端末を混ぜると、その分だけ対象経費から外れます。分けて書くか、最初から入れないほうが安全です。
なお、令和8年度からは、特例になっていた自動車(特殊用途自動車を除く)が対象外になりました。前年度の情報で計画を立てている場合は、ここも確認してください。
いくら戻るのか:助成率と上限額
助成される金額は、かかった費用に助成率を掛けた額と、コースごとの上限額を比べて、安いほうです。
- 助成率:事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4
- 上限額:引き上げる額(50円・70円…)と、引き上げる人数で決まります。50円コースで1人なら30万円(事業場規模30人未満は40万円)、10人以上なら130万円
- 最大は600万円
案内の計算例はこうです。事業場内最低賃金1,040円の会社が、8人を90円引き上げ(上限450万円)、設備投資に600万円かけた場合。600万円×4/5=480万円と、上限450万円を比べて、450万円が支給されます。
逆に言うと、上限額より小さい投資なら、助成率のほうで決まります。50万円の自動化なら、4/5で40万円です。
申請に使う見積書は、こう書きます
交付申請には、設備投資の内容が分かる見積書が要ります。作業の中身と金額を分けて書くのがコツです。下は、事務作業の自動化を頼む場合の見積書の例です。

書くときの要点は4つです。
- 一式でまとめない。「システム構築一式 540,000円」だけでは、何に対する助成なのかが説明できません
- 端末を混ぜない。パソコンが必要なら、別の見積書に分けます
- 納期を書く。交付決定から事業完了までの期間に収まるかを見られます
- 発行日を交付決定より前にしない工夫。見積は先に取れますが、発注は交付決定の後です
いくらの自動化なら、いくら戻るのか
「600万円の設備投資」と聞くと自分には関係ないと感じますが、この助成金は小さい金額でも使えます。事業場内最低賃金が1,050円未満(助成率4/5)の会社で、50円コース・1人を引き上げる場合(上限30万円/事業場規模30人未満なら40万円)を例にすると、こうなります。
| 自動化にかけた費用 | 費用×4/5 | 上限額(30人未満・50円コース1人) | 支給される額 | 自己負担 |
|---|---|---|---|---|
| 200,000円 | 160,000円 | 400,000円 | 160,000円 | 40,000円 |
| 400,000円 | 320,000円 | 400,000円 | 320,000円 | 80,000円 |
| 600,000円 | 480,000円 | 400,000円 | 400,000円 | 200,000円 |
上限額に届くまでは、かけた費用の5分の4が戻る計算です。50万円の自動化なら40万円。自己負担は10万円で、転記や集計の作業が仕組みに変わります。
逆に、上限を超えた分は全額が自己負担です。上の3行目のように、60万円かけても戻るのは40万円まで。引き上げる人数を増やしてコースの上限を上げるか、投資を上限に合わせるかの判断になります。助成金の枠に合わせて、作るものを切るという考え方も、この制度では成り立ちます。
申請書に書く「生産性が上がる根拠」の作り方
審査で見られるのは、その投資で本当に生産性が上がるのかです。事務の自動化は、機械のように「1台で何個作れる」と言いにくいので、時間で書くのが確実です。
書き方の型は、次の3行です。
- 今:誰が、何を、月に何時間やっているか(例:事務2名が、受注表から請求書への転記に月16時間)
- あと:それが何時間になるか(例:入力を1か所にして、月20分)
- その時間で何をするか(例:空いた時間を、未入金の確認と発送の前倒しに充てる)
ここで大事なのは、1の数字をあとから確かめられる形で持っておくことです。実績報告では、計画どおりに進んだかを説明します。今の作業時間を、思い出しではなく、1週間の記録で出しておくと後が楽になります。紙のメモで構いません。「月曜 45分、火曜 40分…」という記録が、いちばん強い根拠になります。
もう1つ。助成金が取れるかどうかで、作るものを決めないことをおすすめします。助成金は費用の一部を戻す制度で、必要のない仕組みを入れれば、戻らなかった分と、使わないシステムの両方が残ります。順番は、困っている作業を決める → その解き方を決める → 使える制度があるか見る、です。
先に発注してはいけません
この助成金でいちばん多い事故が、これです。交付決定の前に発注・契約・支払いをすると、その経費は対象になりません。
順番は、見積を取る → 交付申請 → 交付決定 → 発注・作業 → 支払い → 実績報告です。見積を取るところまでは、いつ始めても構いません。むしろ、見積に時間がかかるので早いほうがいいです。
賃上げは「発効日の前日まで」に完了させる
案内には、地域別最低賃金の改定に合わせて引き上げる場合の例が載っています。10月1日に地域別最低賃金が1,040円から1,090円になる県で、事業場内最低賃金を1,045円から1,100円に上げるとき。
- 9月30日までに引き上げを完了:対象
- 10月1日(発効日の当日)に引き上げ:対象外
1日違うだけで結果が変わります。引き上げの実施日は、給与規程や賃金台帳で示せる形にしておいてください。
9月30日までにやること(10月1日発効の県)
- 自分の県の発効日を確かめる(47都道府県の一覧)
- 事業場内最低賃金(その事業場でいちばん低い時給)がいくらかを確かめる
- 引き上げる人数と引き上げ額を決め、コースを選ぶ
- 自動化したい作業を1つ選び、見積書をもらう(端末は入れない)
- 交付申請書を出す(締切は発効日の前日)
2の確認には、最低賃金が締め日の途中で上がる月の給与計算で使っているチェック表が使えます。時給・日給・月給が混ざっていても、全員を時間額にそろえて比べられます。
事業場内最低賃金(その事業場でいちばん低い時給)の確認には、最低賃金チェック表(令和8年度・47都道府県入り)が使えます(3,000円・Excel 1ファイル)。時給・日給・月給が混ざっていても、全員を時間額にそろえて比べられます。
よくある質問
ソフトウェアやシステムの開発費は対象になりますか?
厚生労働省の案内には、対象経費の例として「顧客管理情報のシステム化」が挙げられています。生産性向上に資する内容であれば対象になり得ます。個別の可否は、管轄の都道府県労働局にご確認ください。
パソコンを買う費用は対象ですか?
一般の事業者は対象外です。物価高騰等要件に該当する特例事業者に限り、新規導入のPC・スマホ・タブレット等が対象になります。
助成率はいくらですか?
事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4です。支給額は、費用×助成率と、コースごとの上限額のうち安いほうです。
見積を先に取っても大丈夫ですか?
見積は先に取って構いません。発注・契約・支払いを交付決定の前にすると対象外になります。
申請の締切はいつですか?
都道府県ごとの最低賃金の発効日の前日と、11月30日のいずれか早い日です。10月1日に上がる15都府県では9月30日です。
まとめ
- 対象経費の例に「顧客管理情報のシステム化」があり、事務の自動化は対象になり得る
- PC・スマホ・タブレットは一般の事業者では対象外。見積書に混ぜない
- 助成率は4/5または3/4。支給額は費用×助成率と上限額の安いほう
- 見積は先に取ってよい。発注は交付決定の後
- 賃上げは発効日の前日までに完了させる
出典:厚生労働省「令和8年度業務改善助成金のご案内」(2026年9月23日取得)、同「令和8年度 地域別最低賃金 答申状況」。要件は変更される場合があります。申請の可否と手続きは、管轄の都道府県労働局にご確認ください。申請書類の作成代行は社会保険労務士の業務であり、当社では行いません。