2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)の対策は事業主の義務です。会社の規模による猶予はありません。とはいえ、給与の締めや最低賃金の改定と重なって、方針も窓口もまだ決まっていないという小さな会社は少なくないはずです。
この記事は、10月1日に間に合わなかった会社が、今日から1週間で何をどの順番でやればいいかを書いたものです。先に1つだけ大事なことを書いておきます。遅れを取り戻そうとして、書類の日付を9月にさかのぼらせないでください。理由は後で書きます。
結論:1週間で「方針・窓口・記録・周知」をそろえ、日付は今日の日付で残す
間に合わなかった会社がやることは、間に合った会社がやったことと同じです。違うのは順番と、日付の扱いだけです。
- 1日目:方針を紙1枚にする
- 2日目:相談窓口を決める
- 3日目:その場の対処と、悪質な場合の対処を決める
- 4日目:記録の型を用意する
- 5日目:全員に知らせて、知らせた日付を残す
- 6〜7日目:15分の説明と、最近の出来事の書き留め
4日目の「記録の型」から先に用意したい方へ:対応記録・周知した日付・研修の記録を1つにまとめた カスハラ対応 記録・証跡キット(¥9,800・買い切り) があります。書いた瞬間に記録IDと日時が自動で付くので、日付をさかのぼらせる余地がありません。
間に合わなかったら、どうなるのか
まず落ち着いて状況を確かめます。カスハラ対策の措置を講じていないことに、直接の刑事罰はありません。措置を講じていない場合は、行政の助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わない場合は企業名の公表もあり得る、という仕組みです。
ただ、実務で困るのは行政の指導より先に、カスハラが実際に起きたときです。方針も窓口も記録もない状態で社員がお客さまの言動に傷ついたとき、会社は「何をしていたか」を説明できません。社員が心身を崩した場合には、会社の安全配慮の責任が問われることもあります。
だから、遅れていても今日から始める意味があります。完璧な体制を1か月かけて作るより、1週間で最低限の形を動かし始めるほうが、社員も会社も守れます。
書類の日付を9月にさかのぼらせない
遅れた会社がやりがちな失敗が、方針や周知の書類に「9月30日」などの日付を入れて、間に合っていたように見せることです。これはやめてください。
- 後から作った書類の日付がさかのぼっていると、ほかの記録(メールの送信日時、ファイルの作成日、社員の記憶)と合わなくなります。1か所の食い違いで、ほかの記録まで信用されなくなります
- 行政の確認や、社員とのトラブルの場面で、日付の食い違いは「対応を取り繕った」と受け取られます
- 遅れたこと自体より、さかのぼったことのほうが、説明が難しくなります
日付は、実際に作った日、実際に知らせた日で残します。10月8日に知らせたなら、10月8日と書きます。遅れていても、日付が正直な記録は、そこから先の対応を示す材料になります。
1日目:方針を紙1枚にする
最初に、会社としての方針を決めます。長い規程は要りません。次のような文で足ります。
当社は、お客さまや取引先からの著しい迷惑行為(暴言、脅し、長時間の拘束、執拗な要求など)から、従業員を守ります。正当なご意見やご要望には誠実に対応しますが、社会通念を超える言動には、組織として毅然と対応します。
厚生労働省が公開している企業向けのマニュアルにも、方針の例が載っています。自社の業種に合わせて言葉を直してください。作った日付を、紙の下に書いておきます。
あわせて、お客さま向けの短い版を店頭やホームページに掲げておくと、トラブルになりかけた場面で「当社の方針です」と示せます。社員にとっても、会社が守ってくれるという合図になります。
2日目:相談窓口を決める
次に、社員が困ったときに相談する窓口を決めます。社員が数人の会社では、社長が窓口になりがちですが、社長自身がそのお客さまの担当だと、相談が来ません。社長ともう1人の2名にするか、社長が当事者のときだけ外部に頼めるようにしておきます。
厚生労働省の指針では、外部の機関に相談への対応を委託することも、窓口を定めていると認められる例として挙げられています。パワハラの相談窓口がすでにある会社は、同じ窓口でカスハラの相談も受ければ足ります。小さな会社での決め方は、社員10人以下の会社のカスハラ相談窓口に詳しく書いています。
3日目:その場の対処と、悪質な場合の対処を決める
厚生労働省のリーフレットでは、カスハラが起きたときの対処の内容を、あらかじめ決めて社員に知らせることが求められています。例として挙がっているのは、次のようなものです。
- 上司に、その場の対応の方針を仰ぐ
- できるだけ1人で対応させない
- 犯罪になり得る言動は、警察に通報する
- 本社や本部に情報を共有し、指示を仰ぐ
あわせて、特に悪質なカスハラへの対処の方針も決めておきます。これはパワハラの措置にはなかった、カスハラ独自の項目です。「警告しても繰り返す場合は、取引や来店をお断りする」「暴力や脅しがあれば警察に相談する」といった形で、紙に1〜2行書いておけば足ります。
4日目:記録の型を用意する
相談を受けたとき、窓口の人が何を書けばいいか迷わないように、記録の型を用意します。1件ごとに、次の6つが残る形にします。
- いつ(発生した日時と、記録した日時)
- どこで・誰が(店頭・電話・訪問先と、対応した人)
- 何があったか(相手の言葉と、続いた時間。事実だけ)
- その場でどう対応したか
- その後の措置(相談した人への配慮、再発防止で決めたこと)
- 誰が確認したか(責任者の確認と、その日付)
ここで効いてくるのが、1つ目の「発生した日時」と「記録した日時」を分けておくことです。2つを分けておけば、10月に入ってから9月の出来事を書き留めても、いつ起きて、いつ書いたかが正直に残ります。

この台帳は、記録・証跡キットにそのまま入っています(Googleスプレッドシート・データは御社のアカウント内のみ)。
5日目:全員に知らせて、日付を残す
1〜4日目で決めたことを、紙1枚にまとめて全員に知らせます。書いておくのは、方針、窓口の名前と連絡方法、その場の対処、そして次の2つです。
- 相談した人のプライバシーは守ること
- 相談したことを理由に、不利益な扱いはしないこと
この2つも、指針で社員に知らせることが求められている項目です。
知らせ方は、朝礼、掲示、メールのどれでも構いません。朝礼ならその日付と参加者を、掲示なら日付が分かる写真を、メールなら送信記録を残します。知らせた日付は、実際に知らせた日です。休みの社員には、出勤した日に伝えて、その日付も残します。
パートやアルバイトの人も対象です。シフトの都合で朝礼に出ない人がいる会社では、掲示とあわせて一人ずつ伝え、伝えた日を名簿の横に書いておくと漏れません。
6〜7日目:15分の説明と、最近の出来事の書き留め
最後に、社員向けに15分ほどの説明の時間を取ります。長い研修は要りません。伝えるのは3つです。
- 我慢しなくていい。正当なクレームとカスハラは違う
- 1人で対応しない。困ったら責任者に代わる
- 起きたことは、その日のうちに事実で書き留める
説明した日付と参加者も記録します。
そのうえで、最近あった困った出来事を、社員に聞いて書き留めておきます。9月以前の出来事でも構いません。このとき、発生日は実際に起きた日、記録日は今日の日付で書きます。過去の出来事を正直に残しておくと、同じお客さまからの言動が続いたときに、経緯を示せます。
上の記録台帳と、周知した日付の記録、研修の記録を、Googleスプレッドシート1つにまとめたものをカスハラ対応 記録・証跡キット(¥9,800・買い切り)として販売しています。行を書くと記録IDと日時が自動で付き、方針・マニュアルの下書きも作れます。データは購入者のGoogleアカウントの中だけに保存されます。
よくある質問
10月1日を過ぎても何もしていないと、すぐに罰則がありますか?
直接の刑事罰はありません。措置を講じていない場合は、行政の助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わない場合は企業名の公表もあり得ます。遅れていても、今日から始めることが大切です。
方針や周知の書類に、9月の日付を入れてもいいですか?
やめてください。実際に作った日、実際に知らせた日で残します。日付をさかのぼらせると、ほかの記録と食い違ったときに、記録全体が信用されなくなります。
1週間でも間に合わない場合は、何を先にやればいいですか?
相談窓口を決めて知らせることと、記録の型を用意することです。この2つがあれば、カスハラが起きたときに、社員が相談でき、会社が事実を残せます。方針の文章は、その後で整えても構いません。
社員が数人の会社でも、ここまで必要ですか?
必要です。人を雇っている事業主はすべて対象です。ただ、社員が数人なら、紙1枚と記録のシート1つで足ります。大きな規程や長い研修は要りません。
まとめ
- 10月1日に間に合わなくても、1週間で方針・窓口・記録・周知をそろえる
- 書類の日付はさかのぼらせない。実際に作った日、知らせた日で残す
- 悪質な場合の対処の方針も、紙に1〜2行書いておく(カスハラ独自の項目)
- 記録は「発生した日時」と「記録した日時」を分けて持つ
出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)、同「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」(2026年9月26日確認)。本記事は一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の判断は、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。