10月1日から、カスタマーハラスメント(カスハラ)の対策が事業主の義務になります。会社の規模による猶予はなく、社員が数人の会社も対象です。義務になる措置の1つが、相談窓口をあらかじめ定めて、働く人に知らせることです。
大きな会社なら人事部が受け持てば済みます。ところが社員が10人に満たない会社では、窓口になれる人が社長しかいない、ということがよくあります。そして社長が窓口だと、いちばん相談が必要な場面で相談が来ません。
この記事では、社員10人以下の会社を想定して、相談窓口の決め方、全員への知らせ方、相談を受けたあとの記録の残し方を、順番に書きます。
義務化の全体像(何が求められるか、10項目の措置、罰則の扱い)は、カスハラ対策の義務化、中小企業は何をすればいい?にまとめています。この記事は、そのうち「相談窓口」と「記録」を掘り下げたものです。
結論:窓口は2名にし、社長が当事者のときの逃げ道を決め、紙1枚で知らせる
先に結論を書きます。社員10人以下の会社なら、次の3つが決まっていれば、相談窓口として動き始められます。
- 窓口は社長ともう1人の2名にする。どちらに話してもいい、と決める
- 社長が当事者になるときの、外部の逃げ道を決めておく。顧問の社会保険労務士など
- 窓口の名前と連絡方法を紙1枚にして、全員に配るか掲示する。配った日付を残す
以下、それぞれの理由と具体的なやり方です。
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指針が相談窓口について求めていること
厚生労働省の指針(令和8年厚生労働省告示第51号)と、同省のリーフレットで示されている措置のうち、相談窓口にかかわるものは次のとおりです。
- 相談窓口をあらかじめ定め、働く人に周知する
- 相談窓口の担当者が、適切に対応できるようにする
- 相談があったら、事実関係を迅速かつ正確に確認する
- 相談した人のプライバシーを守る措置を講じ、そのことを周知する
- 相談したこと等を理由に不利益な取扱いをしないと定め、周知・啓発する
窓口の形については、指針に2つ、小さな会社にとって大事な記述があります。
1つは、相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例として、外部の機関に相談への対応を委託することが挙げられている点です。社内に適任者がいなければ、外部に頼む形でも窓口を定めたことになります。
もう1つは、ほかのハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも考えられるとされている点です。パワハラの窓口をすでに決めている会社は、カスハラ専用の窓口を新しく作らなくても、同じ窓口で受ければ足ります。
「窓口=社長」で詰まる3つの場面
社長が窓口になること自体は、間違いではありません。社員が数人の会社では、むしろ自然な形です。ただ、次の3つの場面で行き詰まります。
1. 社長自身が、そのお客さまの対応に関わっている
小さな会社では、大口の取引先や常連のお客さまの担当が社長自身であることが多くあります。そのお客さまからの言動について、担当している本人に「困っています」と言うのは、かなり勇気が要ります。
2. 社長には言いにくい
「お客さまを大事にしろ」「そのくらい我慢しろ」と言われそうだ、と思えば、相談そのものをためらいます。社長がそう言うかどうかではなく、働く人がそう感じるかどうかで、相談が来るかどうかが決まります。
3. 社長がその日に話を聞けない
社長が外回りや現場に出ていて、店や事務所にいない日が多い会社もあります。その日のうちに話を聞けないと、記憶が薄れ、記録も残りにくくなります。
窓口があっても、相談されなければ意味がありません。大事なのは、窓口を「置いたかどうか」ではなく、相談しやすいかどうかです。
決め方1:社長ともう1人の2名にする
いちばん手軽で効くのが、窓口を2名にすることです。「どちらに話してもいい」と決めておくだけで、言いにくさがかなり減ります。
もう1人は、役職者である必要はありません。次のような人が向いています。
- 接客の最前線に立つことが少ない人(経理・事務の担当など)。当事者になりにくいため
- 社員から見て、話しかけやすい人。ベテランのパートさんでも構いません
- 聞いたことを、本人の了解なく広めない人
2名にしておくと、社長が当事者になった場面は、もう1人が受けられます。逆に、もう1人が当事者の場面は社長が受けます。
もう1人の担当者には、最初に次の3つだけを伝えておきます。「聞いたことは、本人の了解なく広めない」「事実を書き留める(書き方は後述)」「その日のうちに、社長かもう1人に共有する(本人の了解を取ってから)」。
決め方2:社長が当事者になるときだけ、外部に頼む
社員が3〜4人で、社長のほかに窓口を任せられる人がいない会社もあります。その場合は、社長が当事者になるときの逃げ道として、外部の窓口を1つ決めておくのが現実的です。
顧問の社会保険労務士がいる会社なら、まずその方に、カスハラの相談を受けてもらえるか聞いてみてください。外部の相談窓口を請け負うサービスもあります。どちらの場合も、費用と、相談を受けたあと会社にどこまで伝えてもらうかを、先に決めておきます。
外部の窓口は、ふだんから使うものでなくて構いません。「社内では言いにくいときは、ここに相談していい」という逃げ道が紙に書いてあることに意味があります。
決め方3:窓口の名前と連絡方法を、紙1枚で全員に知らせる
窓口を決めたら、全員に知らせます。紙1枚にまとめ、配るか、休憩室などに掲示します。書いておく項目は次のとおりです。
- 相談窓口の担当者の名前(2名)と、連絡方法(直接・電話・社内のチャットなど)
- 社内では言いにくい場合の外部の窓口(決めた場合)
- 相談した人のプライバシーは守ること
- 相談したことを理由に、不利益な扱いはしないこと
- その場でどう動くか(1人で対応しない、責任者に代わる、暴力や脅しは警察に通報する など)
プライバシーと不利益な扱いの2つは、指針で、働く人に知らせることが求められている項目です。窓口の紙に一緒に書いておけば、別に周知する手間が省けます。
文面は、たとえば次のような形で足ります。
お客さまや取引先からの言動で困ったことがあれば、相談してください。相談窓口は、〇〇(社長)と△△の2名です。どちらに相談しても構いません。社内で言いにくい場合は、□□(顧問社会保険労務士)に相談できます。相談した内容は、本人の了解なく広めません。相談したことで、不利益な扱いをすることはありません。暴力や脅しを受けたときは、1人で対応せず、すぐに責任者に代わってください。
そして、配った日付、または掲示した日付を残しておきます。朝礼で読み上げたなら、その日付と参加者を記録します。掲示したなら、日付が分かる形で写真を撮ります。後から「いつ知らせたか」を示せるのは、この記録だけです。
相談を受けたら:最初にやる4つ
窓口の担当者が迷わないように、相談を受けたときの最初の動きも決めておきます。順番は次のとおりです。
- 話を聞き、事実を書き留める。いつ、どこで、誰が、何を言われたか、どれくらい続いたか
- 相談した人の状態を確かめる。必要なら、そのお客さまの担当を替える、休ませる、2人で対応する体制にする
- その場の対処を決める。お客さまへの連絡を責任者が引き取る、悪質な場合は警告や出入りの制限、暴力や脅しがあれば警察に相談する
- 同じことが起きないように、決めたことを書き残す。対応を2人にする、電話は録音を知らせてから受ける、など
1の「事実を確かめる」は、指針で「迅速かつ正確に」と求められています。数日たつと記憶は曖昧になるので、その日のうちに書き留めるのが原則です。
記録は「評価」ではなく「事実」で書く
相談の記録で、いちばん多い失敗は、事実と書き手の評価が混ざることです。「ひどいことを言われた」「威圧的だった」と書いても、後から読んだ人には、何が起きたのか分かりません。
- 避けたい書き方:お客さまに怒鳴られ、長時間責められた
- 事実で書く例:「責任者を出せ」「誠意を見せろ」と大声で繰り返した。店頭で約40分。ほかのお客さまが3組いた
判断の目安は、その場を見ていない人が読んで、状況を思い浮かべられるかです。感情を書かないという意味ではなく、「本人が涙ぐんでいた」のように、観察できる事実として書きます。判断は後からでもできますが、記録は後からは作れません。
1件ごとに、次の6つが残る形にしておきます。
- いつ(発生した日時と、記録した日時)
- どこで・誰が(店頭・電話・訪問先と、対応した人)
- 何があったか(相手の言葉と、続いた時間。事実だけ)
- その場でどう対応したか
- その後の措置(相談した人への配慮、再発防止で決めたこと)
- 誰が確認したか(責任者の確認と、その日付)

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紙のノートでも記録はできます。ただ、紙は「書いたのに見つからない」「いつ書いたか分からない」で行き詰まりがちです。スプレッドシートなど、書いた日時が自動で残る形にしておくと、窓口の担当者が替わっても引き継げます。記録の書き方は、カスハラ対応記録の作り方でも詳しく書いています。
社長が当事者になったときの記録
社長自身が対応したお客さまについての相談は、もう1人の窓口か、外部の窓口が受けます。このとき、記録の「確認者」の欄に社長の名前だけが並ぶ形は避けます。
相談した人が「社長に知られたくない」と言う場合は、その意向を記録に書いたうえで、外部の窓口にどう扱うかを相談します。社長が内容を知るのは、相談した人の了解を取ってからです。小さな会社ほど、誰が相談したかはすぐに分かってしまうので、プライバシーの扱いは先に決めておきます。
10月1日までにやる順番
ここまでの内容を、手を付ける順に並べます。社員10人以下の会社なら、1日で終わる量です。
- 窓口の2名を決める(社長ともう1人)。もう1人の人に引き受けてもらう
- 外部の逃げ道を決める(顧問の社労士に聞く、など)。決まらなければ、後日でも構いません
- 紙1枚を作る。窓口の名前、連絡方法、プライバシーと不利益な扱いの2つ、その場の動き方
- 全員に知らせ、日付を残す。配布・掲示・朝礼のいずれか
- 記録の型を用意する。上の6項目が残るノートかシート
パワハラの相談窓口をすでに決めている会社は、1と2は済んでいることが多いはずです。紙1枚に「カスハラの相談も受ける」と足し、4と5に進んでください。
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よくある質問
社員が1人だけでも、相談窓口は必要ですか?
必要です。カスハラ対策の措置は、人を雇っている事業主すべてが対象で、会社の規模による猶予はありません。社員が1人なら、社長が窓口になり、社内で言いにくい場合の外部の相談先を紙に書いておく形が現実的です。
パワハラの相談窓口と同じでいいですか?
構いません。指針では、ほかのハラスメントの相談窓口と一体的に設置することも考えられるとされています。すでに窓口がある会社は、その窓口でカスハラの相談も受けると知らせれば足ります。
外部の会社に窓口を任せてもいいですか?
できます。指針では、外部の機関に相談への対応を委託することが、相談窓口をあらかじめ定めていると認められる例の1つとして挙げられています。任せる場合も、窓口がどこかを社員に知らせることと、相談を受けたあとの事実確認や配慮は、会社が行います。
窓口を決めなかったら、罰則はありますか?
刑事罰は直接ありませんが、措置を講じていない場合は行政の助言・指導・勧告の対象になり、勧告に従わない場合は企業名の公表もあり得ます。それ以上に、相談を受ける場がないまま社員が心身を崩した場合の、会社の責任のほうが重くなります。
まとめ
- 社員10人以下の会社では、窓口は社長ともう1人の2名にする
- 社長が当事者になるときのために、外部の逃げ道を1つ決めておく(指針でも外部への委託は認められている)
- 窓口の名前と連絡方法、プライバシーと不利益な扱いをしないことを紙1枚にして、日付を残して知らせる
- 相談を受けたら、その日のうちに事実で書き留める
出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)、同「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます!」(2026年9月26日確認)。本記事は一般的な解説であり、法的助言ではありません。個別の判断は、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。